「あー、えっと、このパスタ美味しそうだな~っと思って見てただけ!竜はどうしてここに?」


我ながらいい誤魔化し方だ。わたしは看板を見ていただけ。決してとあるカップルなんて見ていない。知らない。


「友達と待ち合わせしてんだけど、友達が遅れるってついさっき連絡あってさ。昼飯一緒に食うつもりだったのに、もう腹減って待てねーから先に食おうと思ってここらへんブラブラしてたんだよ」


「そ、そうなんだ」


「ちょうどいい、笑、ここのカフェで一緒に食おうぜ?」


「えっ」


竜はわたしの返事なんて聞かず、カフェのなかへズカズカと入っていった。


ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待ったあー!!!


わたしの中で危険信号が鳴り響く。真っ赤に光ってカンカンと鳴り響いている。


竜、待ってよ!!と言いたいところだけど、今ここで変に騒ぐと返って目立ってしまうことに気がついた。


ここは大人しく竜の後ろに隠れて、遥斗と百合ちゃんから見えない席に座ってさっさと食べたほうが懸命かもしれない。


「り、竜。ここ座ろ」


「あっちの広いところ、空いてるぞ?まあいいけど」


竜の言うあっちの広いところなんてもっての他だ。そこにはあの二人がいるんだから。


「笑はあの新作パスタだろ?俺はなににしよっかなー」


椅子に座り、メニュー表を眺める竜。


わたしは正直新作パスタでもなんでもいい。


今この状況でなにを食べたって心から味わえる自信はないからだ。


「つーか笑、ひとりでここに何しに来たんだ?」


竜が痛いところをついてきた。だけど、冷静にありのままを答えたらいい。わたしはお父さんの誕生日ケーキのことを説明した。これは決して嘘ではないのだから。


「へえ~、笑の父さん誕生日なんだ。何歳なんだ?」


「たしか46歳だったかな?」


「若っ。俺んちの父さん58だぞ」


「だって竜は末っ子じゃん」


竜は兄と姉がいると言っていた。それならば必然的に親の年齢は高くなるだろう。


「俺もこの新作パスタにしよーっと」


ずいぶん悩んでいたくせに、結局それにするんかいと心の中でつい突っ込んでしまったそのとき。


「…あれ、桂木?」


わたしは先ほどカフェの前で竜に後ろから話しかけられたけど、竜もまた、今度はカフェのなかでとある人物に後ろから話しかけられた。


その人物はまさかの……百合ちゃんだった。


「よお!相田。久しぶりだなー!」


振り向いた竜は元気にそう言った。


わたしは驚いて開いた口がふさがらなかった。


竜と百合ちゃんが、知り合いだったなんて。