『百合ちゃんになにかあったら、遥斗が悲しむから』


あなたはただただ視線を落とし、静かにそうつぶやいた。


だけどわたしには、それが叫んでいるかのように見えた。


遥斗くんを守りたい。

ただその一心が、今目の前にいる彼女の瞳には強く刻まれていた。


──負けた。って思った。


わたしはもう、笑うしかなかった。


………………なんなの、この子。


まるで、自分のことより何百倍も遥斗くんのことが大切かのような………。




遥斗くんと、佐倉さん。

この二人は、あきらかにおかしい。

あきらかにお互いが想いあっているのに、なぜかすれ違っている。


どうやら邪魔なのは………………わたしのほうだったようだ。


もう、いいよ。

遥斗くんを、返してあげる。

本来の居場所であるあなたの隣に、返してあげる。


だけど最後に一度だけ、意地悪させて。

わたしは心の中でそうつぶやいて………あなたの前でわざと、彼にキスをした。


最初で最後のキスだった。


遥斗くん、ごめんね。


最後に遥斗くんとの思い出が、ほしかったの。


明日──遥斗くんの心の中を、暴いてあげる。