わたしは「…うん……っ」とうなづいた。
“うん”しか言えなかった。
それ以外の言葉は………喉が張り付いたみたいに、出てこなかった。
………わたしは、遥斗くんが目を覚ましてから思わず手を取っただけなのに。
ずっと握ってなんか………なかったのに。
──いったいだれが、遥斗くんの手を握っていたというの?
その日から、わたしの胸のモヤモヤが始まった。
──『笑』──
悲しげに。切なげに。
そして、愛しげに。
わたしじゃない『笑』という女の子は………一人しかいなかった。
佐倉笑。
遥斗くんの、幼なじみ。
なんで………あの子の名前を呼んだの?
夢の中で………あの子が遥斗くんの手を握っていたの?
遥斗くんの彼女はわたしなのに………どうして……?
だけど遥斗くんにそんなこと聞く勇気はなく、モヤモヤとした気持ちを心の隅に隠しながらそれからの日々を過ごした──。



