「笑のくせになにロマンチックな絵書いてんだよー!」


竜のそんなちょっかいに、わたしはハッとして沈みそうになっていた心を元に戻した。


「わたしだってロマンチックなところくらいあるの!竜こそ、なにその海!!」


竜が描いているのはまるでハワイのビーチのようだ。

まさかハワイのビーチにでも行ったことがあるのだろうか。


「別に海描いたっていーだろ!」


「運動音痴のくせに海書くな!」


「う、運動音痴かんけーねーだろ!!」


「ああもう、竜の話してると絵が進まないっ!」


「いーや、笑のせいだ!」


「うふふ、ふたりとも、ほんとに仲がいいね!」

と優香が眉を下げて上品に笑った。


仲がいい!?


「優香っち、ちがうんだよ、俺が仲良くしてやってんの!」


竜がまたお調子でそんなことを言う。


「竜~!それ、わたしのセリフ!わたしが仲良くしてあげてるの、わかってる~!?」


「うふふっなんだか漫才師みたい」


漫才師って…優香、それ、ほめてるの!?


でも、優香が笑ってくれるから、いっか。


わたしも内心、竜と言い合いこするのはけっこう楽しい。


竜はクールな遥斗とは、またちがうタイプ。どちらかというと、わたしタイプ。楽観的な性格で、気が合うんだ。


よし、気を取り直して続きの絵を塗ろう!

そう思って一旦バケツの水を入れかえることにした。


バケツを手に持って、グラウンドが見える窓側の水道場にバケツから水をこぼさないように気をつけて移動した。


水道場に流れる、満月の赤と、夜空の青。


スルスルと穴の中へと消えていく。


遥斗とふたりでみた景色が……消えていく。


わたしはそれを、ぼう…っと眺めた。


──ピーッ!


そのとき窓の外から聞こえてきた笛の音にびっくりして、バケツを手から落としそうになった。