「あの、遥斗………一回離れよ……?わたし、そろそろ行かなきゃだし………」


壁に掲げてある時計に目をやると、もうすぐで竜との約束の30分が経ってしまう。

ほんとはこのままでいたいけど……応援団のほうへ、行かなきゃ。

というか、いくら想いが通じあったからと言ったって、ちょっとぎゅうぎゅうしすぎなのでは………?

薄い布越しに体が密着しているせいで、余計に恥ずかしい………。


「……いやだ」


さらに抱き締める力が強くなる。


い、いやだって。


「………せっかく俺のものになったのに、なんで離さなきゃいけねえんだよ……」

なんてことを言う。


「……わ、わたし、ものじゃない…」


「…………俺のものにしないと気がすまない」


もう………わがままな遥斗。


「俺だけの笑でいて」


だきしめたまま、鼻と鼻がくっつくくらい近くで見つめられた。


「う、うん、わかった……」


「ほんとかよ?」


「ほ、ほんとだよ………?」


「ちゃんと目、見ろよ」


だから~、もう、近すぎるの………!!


「なんで泣きそうな顔すんの?笑えよ、…笑のくせに」


遥斗がわたしの名前で遊ぶから、思わずふふっと笑みがこぼれた。


「………やっぱり、笑った顔が一番可愛いな。一番好きだよ」


甘い甘い遥斗に……わたしはもうたじたじ。

クールな遥斗はどこへやら……?


「わ、わたしも……遥斗の笑顔が一番好き……」




遥斗の勘違いからすれ違いはじめたわたしたち。


たくさんの偶然が重なって、お互いに傷つき傷つけあった。


悲しい思いをした分も、これからふたりで、たくさんの笑みを咲かせようね。


遥斗はとびきり嬉しそうに微笑んで、そっとわたしの唇に甘いキスを落とした。


今日から毎日、遥斗にたくさん愛される……予感がします。



*end*