「…桂木に言われた。…これは、笑の痛みだって」


遥斗は自分の赤く腫れた左頬に軽く触れて言った。


「笑も俺のこと気がすむまでなぐっていいよ。俺自身が、自分が愚かすぎて許せないから」


これまでのことを振り替える。

遥斗はわたしを忘れるためにわざとわたしに冷たくし遠ざけた。


遥斗の心には百合ちゃんがいるとわたしはずっと思っていた。


でも、ほんとうは………。


「…わかった。それじゃあ、遠慮なく」


わたしがそう言うと、遥斗はぎゅっと目をつむった。


わたしはチビのくせにわりと力があるから身構えているんだ。


たしかに手を伸ばせば、いくらでも遥斗の頬をひっぱたけそう。


いっそのことほんとにひっぱたいてやろうかと思ったくらい。ちなみに右頬。


遥斗の本気でびびってるその顔がおもしろくて、心のなかでこっそり小さく笑った。


そしてわたしは手を伸ばすのではなく、遥斗の腕をつかみ、自分のほうへとグイッと引っ張って……

その赤く腫れた左頬に、ちゅっ…と口づけた。


「…わたしも、遥斗のことが好き。

二ヶ月半前、遥斗に嫌いだって言われて…はじめてこの気持ちに気づいたの。だから、遥斗がわたしを嫌いになろうとしたことは、ちゃんと意味があったんだと思う。

こんな素敵な気持ちに気づかせてくれて、ありがとう」


心から笑みがこぼれた。