ストロベリームーン。
年に一度、6月に観測される満月のこと。
水彩画というお題を出されて、まわりの子はなにを書こうかしばらく悩んでいたけれど、わたしは真っ先にこの風景を選んだ。自然と頭に浮かんだんだ。
もし……もしこのクラスに遥斗がいたとしたら、絶対書けなかっただろうけど…。
わたしと遥斗は、毎年、ストロベリームーンをお互いの部屋のベランダに出て、眺めていたんだ。
わたしの部屋と遥斗の部屋のベランダはちょうど向かい合っている。
中学2年生のとき、夜ご飯を食べたあとに1階のリビングでテレビを見ていたら、その日はストロベリームーンという満月が観測できることが放送されていて、わたしは急いで2階の自分の部屋にかけあがり、ベランダへと飛び出した。
夜空を見上げると、そこには見たこともない赤い満月が存在感たっぷりに浮かんでいた。
あまりに感動して、思わず大きな声で向かいの窓に向けて遥斗の名を呼ぶと、どうやら聞こえたみたいで遥斗は出てきてくれた。
遥斗もストロベリームーンの存在を知らなくて、はじめて観たようで驚いていた。
「綺麗だね」ってふたりで向かい合って笑って、そして月を眺めた。
それから翌年の中3のときも、去年の高1のときも、6月に一度、ふたりでベランダに出てストロベリームーンを観測することが当たり前になっていた。
……今年はきっと……一緒に観ることはないだろう。
もしかしたら、もう二度と、ふたりで眺めることはないかもしれない。
今年は6月の上旬に観られるだろうとネットで見つけた。
わたしは今年も覚えていたけど、どうせ遥斗は…気にしてすら、ないよね。
嫌いなわたしと月を眺めたって…なにも、おもしろくないよね。
わたしはあの時間、すごく好きだったんだけどな。
あのころは遥斗のことを好きと自覚してなかったけど、遥斗とふたりでだから、幸せに感じたんだと今になって思う。
また、ふたりで観たいな……。