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「あ~もう!うまく色が作れない~!!」


むしゃくしゃとして目の前の絵を破いてしまいたい衝動にかられるけれど、そういうわけにもいかず、ぐっとこられる。


どうやったらあのときの色になるの~!!


心の中で叫びながら、バケツの水の中で筆についている絵の具をカチャカチャと溶かす。透明の水は赤色に、みるみる染まっていった。


今は美術の時間。お題は水彩画で、それぞれが思い付く描きたい風景や景色を描いていいのだ。


わたしが描いているのは──。


「っ優香、うま~!?」


右隣で作業をしている優香の絵をちらりと盗み見ると、二度見してしまうほど綺麗なお花畑がそこには広がっていた。


「優香ってなんでもできちゃうの!?」


料理もできるし絵も上手なんて、どんだけ女子なの!?


優香と友達になって約1ヶ月半経ったけれど、毎日のように女子力の高さに驚かされている。


ハンカチ、ティッシュ、怪我の手当てセット、お裁縫セットなど、なんでも出てくるんじゃないかと思うほど。


わたしはこの中でハンカチを借りたことがあるし、ティッシュや絆創膏をもらったことがあるし、制服のとれかけのボタンを数分で直してもらったことがある。……って、ひとつくらい自分で用意しろって感じなんだけど。


「そんなことないよ~!わたしは運動ができる笑ちゃんのほうが羨ましいもん!」


謙虚かつ、わたしのことまでほめてくれる優香は、いったいどうやって育ってきたのだろうか。両親ふたりともめちゃくちゃいい人に違いないと想像する。


「そーそー、笑は体力だけはあるからなー!」


左隣で絵を描いている竜がひょっこり首を突っ込んできた。


「体力だけとか言うなー!まあたしかに、竜みたいに運動音痴じゃないからねえ~?」


「運動音痴じゃねーし!」


「運動音痴でしょ!去年のサッカーで、ずっこけてたじゃん!」


「う、うるせえ!それはもう忘れろ!…って、笑、それ、なに書いてんだ?月が…赤色?」


竜はわたしの絵を見て不思議そうに首をかしげた。


わたしが描いているのは──夜空だ。


その真ん中には、赤色の月が存在感たっぷりに浮かんでいる。


「わたし、それ知ってる!ストロベリームーンでしょう?」


優香が得意げに可愛らしく声をあげた。