「桂木くん、先に中庭行ったのかな?」


「うん、たぶんそうじゃない?」


竜ってけっこう自由っぽいところあるからなあ。

今頃竜も竜で中庭で「おっせーなー!」なんて言いながら先にお弁当食べてたりして。

想像すると少し笑えた。


“わたしもあんな勇気のある人間になりたいなって思ったの”

先ほど優香が言ってくれた言葉を一度胸のなかで繰り返す。


……優香、ちがうんだよ。

わたしは、勇気のある人間なんかじゃないんだよ。

遥斗と百合ちゃんが付き合っていることを知って、仲直りするのをすぐに諦めた、勇気のない人間なんだよ。


わたしがもっと、勇気のある人間だったら。

わたしは遥斗と、

まだ幼なじみでいれたかもしれない………。


………それだけで、よかったのに。わたしの“この気持ち”が成就しなくても、それだけで。


わたしはもう遥斗と………幼なじみでさえない。


……幼なじみって………なんなんだろう。

今さらながらそんなことを思う。

たまたま家が隣で……生まれた学年が一緒で……通う学校が一緒で……。

全部、偶然だ。

だけど………わたしと遥斗が縁を切ってしまったのは、偶然ではない。

わたしたち自身が……そうしたんだ。

それならば………最初から、遥斗なんて、幼なじみじゃなかったらよかった。

わたしの誕生日にベランダに立つ遥斗が言った言葉と、重なった。

………同じ言葉なのにその遥斗が言った意味とわたしが思う意味は、まったくの反対であることが悲しすぎるけれど──


『──ガ、ガガ、』

そのとき突然、黒板の上に設置されている放送用のスピーカーが、調子の悪そうな音をたてた。