「佐倉笑ー」


先生が人数と名前の確認をしている。

あー、なんか緊張してきた…!!

運動神経いいっていっても、球技とかが得意なだけで、別に足が速いわけじゃないもんなあ。

クラスの女子で、わたしより速い子たくさんいるのに、みんな「やだ~」って言っちゃって。

まあ、任されたからにはやるっきゃないよね!!1位取りたい!!

そう思ってその場で屈伸をして意気込んでいると。

「相田百合ー」

その名前が耳にすっと飛んできて、わたしの心臓はどくんと音を立てた。


百合ちゃんが、わたしと同じ横列の隣の隣の隣に立っていたのだ。

1~4組、2~8組というふうに横列になっている。

百合ちゃんも100メートル走出場するんだ…。


……せっかく今日の朝、気持ちを切り替えてここまで来たのに、わたしの心はまた沈みそうになった。


正直いって昨日の夜はあまり寝付けなかった。

遥斗と百合ちゃんのキスシーンが、布団に潜り込んでからも脳内にこびりついて離れなかったからだ。

恋人なんだから、キスをするのは当然のことなのに。

わたしはふたりの幸せを願っているはずなのに。

遥斗とは、もう縁を切っているのに。

ふたりのキスシーンを見ただけで、

あんなにも息苦しくなったなんて………。

自分の意志が弱すぎて、悔しい。

………わたしと違って遥斗はもうあの日から、

わたしと縁を切れて清々してるよね──。