あまりに突然で、これがキスだと理解するのに何秒要したことだろう。

時計の入った紙袋が手をすり抜けて遥斗の足元に落下した。

キスの経験なんてこれっぽっちもないわたしは呼吸の仕方も知らなくて、息が苦しくてただただ酸素を求めた。

それなのに、わたしの中に入ってきたのは酸素ではなく遥斗の熱く柔らかいものだった。

遥斗の胸を今わたしが出すことができるありったけの力で叩くのに、そんなのまったく効き目を持たないようだ。


「──いっ、つ……」


なんとか離れようと、わたしは遥斗の唇に歯をたてた。

痛みでようやく離れた遥斗の唇から………ツー…と、赤い血が垂れている。


「っこんなのおかしいよ……!!」

なんでこんなことするの……?

「遥斗には百合ちゃんがいるのに……ッ最低だよ……!!」


こんなこと、百合ちゃんが知ったら、どれだけ悲しむか……。遥斗がこんな人だなんて……知らなかった。


「………そうだな。俺には百合がいて、…お前には……」


遥斗は視線を落として、そんなことをつぶやいた。最後の方は、なんと言ったのか聞き取れなかった。

そして、一呼吸置いてから……

「……お前なんか、幼なじみじゃなかったらよかった」

わたしを真っ直ぐに見下ろし……静かにそう告げた……。

やっぱり………それが、遥斗の本音なんだ。

気まぐれでわたしを誰よりも可愛いと言ってみたり、気まぐれでキスなんてしてきたくせに………結局は、わたしのことが嫌いなんだ。