ボロボロと涙をこぼす葵を、俺は初めて見た。というか、辛そうな顔を見ることすら初めてだった。
「青が好きで、好きで好きで…!だから真剣に優くんのこと考えたのよ!もうこれ以上…っ、私の中に入ってこないで…!」
「あお…────」
あおい、とすら呼ばせてもらえなかった。
そんな余裕もないまま葵は教室を出て行ってしまって、俺はポツンと取り残される。
「……確かに、さいってーだよな」
クシャ、と髪を乱して、その場にヘタリと座り込んだ。
自分でもよくわからない。
葵の言う通り、彼女は取っ替え引っ替えだ。
葵のことだって、恋愛対象として見たことなんて正直一度もない。
それなのに彼氏作るなとか、虫がいいにも程がある。
でも。それでも、嫌だった。
葵が、誰かのものになるだなんて。



