最悪だ。


最悪。


「どうだ、あたりか?」


こんな男に。


さっきまで暴れて人の話も聞かない男に。


「………」


「なんだよ、返事しろよ」


したくなかった。


だって、図星だったから。

まだあれから3ヶ月しか経ってない。

それでも過去にしたつもりだった。

終わったものだと信じていた。

だけど、記憶は繰り返される。

『…行け、お姫さま。お前だけは助かれ』

そう言った彼の姿があたしの頭の中から離れない。

過去になんて出来るはずがなかったんだ。


「分かってるなら、なんで聞くの」

「あたりか。そういう自覚がなさそうだからだ。無くしたつもりでも、心に残ってるのを知らない。いつか、痛い目にあうぞ」

「…ご忠告どうも」

本当に話させるつもりだったのか、今のあたしには分からない。

それでも1つ確かなものがあった。

Beastは綾よりずっと優れた観察力の持ち主で。

誰よりも確かな才能を持っていた。

人の弱点を瞬時に見抜き、同時にどこが強みかも握る。

あたしも同じようにきっとみられているのだろう。


彼は、綾よりずっと危険な人物だ。


よそ見をしていれば容赦なく言葉の刃を斬りつけられる。


今のあたしのように、ね。