「一生、ですって?」
「一生、だよ」
当たり前のように綾が頷いた。
…あたし、とうとう日本にいても安心できないわけ?
向こうの生活が嫌でこちらに逃げてきたというのに。
「もうこんな面倒くさいことに巻き込まれたくないんだけど」
「もう、だと?」
ピクリとBeastの右の眉毛が動いた。
「お前、前に似たようなことに巻き込まれたことがあんのか?」
あ、まずい。
墓穴を掘った。
「さあね」
「そういう話し方は嫌いだ。そこまで言ったなら話せ」
「あなたに好かれたいとなんて思わないんだけど。ただの昔の話よ」
「昔の話なら、話せるんじゃないのか?なんで話せない」
何故って、そんなの。
「言えるわけがないじゃない」
まだ出会って1時間も経ってないような人に。
鋭利な刃物のように人を傷つける人に。
「初対面だからか。まあ、いい。なら、先に答えを出してやろう。お前がなんで人に言えないか。はずれたなら、本当のことなど言わなくていい。だけど、本当ならば」
……あたしは、ここで頷かなければならない。
男の言いたいことは言わなくても分かった。
つまり、そのような事態になったのなら、あたしの心の内を人様に晒すのか。
それは嫌だ。
だけど、聴きたい気もした。
この男がどんな答えを持っているのか。
知りたいと心臓が動いた。
…どうせ、分かるわけないのだろうし。
あたしが小さく頷くと、男はあたしの意図を汲み取ったのか、ニヤリと笑った。
「それは、お前がそのことをまだ過去に出来てねえからだ」