「和佳菜、疲れたんじゃない?少し休むといいわ」
ママは気を遣ってくれたみたいだけど。
「ありがとう」
でも。
「だけど、休めない、かな」
ソファも、絨毯も、ベッドも何もない。
フローリングに寝転がって休むのも、体が痛くなりそうだ。
「せっかくだから、どこか行く?」
ママも言いたいことがわかったようで、そう笑った。
「行こう!ねえ、どこがいいのかしら?」
この辺に詳しくなかったのは、あたしだけじゃなくママも同様で。
「和佳菜、あなた、この辺りで遊んだりしなかったの?」
「まあ、…うん。遊ぶのも駅周辺ばかりだったから」
そもそもの話、そこまで遊んだ気もしない。
ほとんど、仁や綾の隣にいたから。
「…じゃあ、近くのカフェにしましょうか」
「え?そんなところがあるの?」
「今ネットで見ていたらあったわよ。和佳菜、本当に遊んでいないのね」
ママは呆れたように笑っていたけれども、あたしがどうして遊べなかったかについては、聞くことはなかった。
意識的にその話題を避けてくれているのが伝わった。
「じゃ、そこにしようね」
笑ったあたしもまた、彼らの話題を出すことはしなかった。
離れる未来はもうすぐそこにある。
今更、彼らになにかしたいとも思えなかった。



