「何度もすみません、大家さん。いつものようにお願いします」
インターホンの通話ボタンの隣にある大家さん専用のボタンを押して、いつもの通りにお願いをする。
そうすると、仁はホールからいなくなった。
「和佳菜、仁君がこんなに来ているなら一回くらい会ったって」
「仁は分かっていないだけなの!あたしの決意を。会いたくない気持ちを。あたしは会いたくないんだから」
いい加減諦めてほしい。
切実な願いが彼に届けばいいのに。
「ママ、出発は何時にする?」
そうして単純なママを違う話題へと引っ張る。
「そうねえ。フライトは昼からだから、10時くらいには出たいものね」
「なら、まだ時間があるね」
今は8時少し前。
張り切って準備をしたものだから、思ったよりも時間が余ってしまった。



