「どうして?」

「ママのそばでゆっくりと、何にも巻き込まれない。静かな生活を始めたい」

それもあったから。

少し疲れたんだ。

何かに巻き込まれることも。

だれかに心配をかけることも。

もうしたくない。

初めはママの願いもあたしの願いも同じだったんだ。

“ 静かに楽しく暮らしたい ”

それだけだった。

「ママと暮らしたいの。それは、許されないと?」

その瞬間、ママはキャリーバックも、お土産の入った紙袋も、なにもかも手放してあたしを抱きしめた。

「和佳菜はそれでいいの?」

ママの声が震えていた。

ああ、苦しめていたんだとその時改めて感じて、それがあたしには痛かった。

痛くて痛くて苦しい。

「いいに決まってる。あたしはあたしが決めたことを絶対に後悔しない」


そう言ってぎゅっと、ママを抱きしめた。