「…こいつが気絶するまでな」

男はそう言いながら、なおもひたすら殴り続ける。

「もうしてるわ!このままだとこいつ、死ぬだろ!」


そう叫んだ者に対して、男は随分暗い目で笑った。


「別にいい。殺したって」


その視線に、ぞくりと、背筋が寒くなる。


この人は一体なにを見ているのだろうか。

なにかを見ているようで、実はなにも見ていないその目が。


その男にとっさに言いたくなる。

違うよ、そんなに世界は腐っていない。

あたしは色々な人間を見てきたから分かるんだ。


でも、きっと。


そういっても、この男には通じないのだろう。


その瞳の彼にあたしなんて映っていない。


叫んだって、きっと聞こえないのだろう。


分かるんだ、何故か。


それが通じないってことが。