支度を済ませ、マンションを出たのは、10時を過ぎた頃。 菅谷さんが運転するあの黒塗りの高級車を呼びつけた。 「朝飯は食べたのか?」 「もちろん、済ませておいたわ」 「じゃ、あの場所に」 「承知致しました」 中に入ればそんなことを言うと、それ以来黙ってしまった。 「あの場所とは?」 話しかけても。 「着けばわかる」 言葉にするのはそればかり。 「さっきから、そればかりね」 不満げな表情をしたって、仁は素知らぬ顔だった。