「あの頃にはお前の側にはマーク スティーブンがいただろ」

「そうね」

愛しいその人が、毎日あたしと同じ部屋で寝て起きて仕事に出かけた。

「でもきっとあいつはもうこれない」

「なぜ?」

「分かるだろ。毎日ニュースになるような、指名手配犯だ。麻薬の密売で、世界で有名になっちまうようなやつだ。自由に移動なんて出来るわけねえんだ」

じゃあ、何をするの?

あの人がいない人生を、仁はどうあたしを生かすの?

「そう、不安そうな顔をするな。だから、俺がいるんだよ」

「何それ。ふざけているの?」

「ふざけてねえよ。マークの代わりっていうのはすげえやだけど、おまえのとなりにいる理由が出来るならなんだっていい」


「本気?」


「本気だよ。これからはお前の隣に毎日居てやる」

にっと、笑った笑顔はなぜかあたしを安心させた。

それから。

「着きました」

菅谷さんの声が耳に届いて。



「行くぞ、ついてこい」



そう言って、あたしを車から連れ出した。