その時聞こえた声が、あたしは幻聴だと思った。
だって会うはずがないと思うじゃない。
昨日も会いに来なかった、あたしを捨てた男が、そうも簡単に現れると、誰が想像する?
「和佳菜!」
不意にそちらをみると。
うちの車種とは違うけど、たしかに見たことのある黒塗りの高級車が、目の前で止まった。
「…え?」
「和佳菜!和佳菜!」
そして、出てきたその人は琢磨よりも、ママよりも力いっぱいあたしを抱きしめた。
「…えと、」
「どこ行ってたんだ!心配したんだぞ!」
この人、こんなに感情を出す人だったっけ?
二月(ふたつき)離れたその時間を妙に自覚してしまった、けれども。
「…ごめん」
苦しくて、だけどとても愛おしくて。
なのに、どこか許せないのは、マークの車からあの光景を目にしたからだろうか。
ただ、それが苦しかった。
今だって、違う意味で、息をするのも許されないほど苦しいのに。
それなのに、久しぶりに聞いたその声になんだか泣きそうになった。
許せないのに、縋ってしまう。



