「私もよ]

知らないふりをして笑みを浮かべた。

マークはあたしの頬に軽くキスをして、手を振って出て行った。


[セブさん!今日はどこに行く?]

[あまり遊びすぎると、マーク様に怒られますよ?]

ドアから顔を出すと、いつも無表情のセブさんが少しだけ表情を緩めた。

サイレンが聞こえたあの日から、あたしはセブさんと随分仲良くなった。

あの夜から、あたしは時々夜更かしをするようになって。

そこで、少しずつ話すようになって、セブさんが出勤する日はこうやって決まり事のようにどこかに遊びに行く。

あ、そういえば。

あたしはそこでようやく靴をもらったんだ。

今までなかった靴。

ここにきた時履いていた、履き古した低めのヒールの白のパンプスは、いつのまにかマークに捨てられていて。

替わりにともらったのは15センチほどの黒いハイヒール。

そんな靴履いたことがなかったから、部屋の中で練習したものだ。


最近はマークが忙しくて、あまり構ってくれないから、その分自然とセブさんと会う時間が多くなった。

あたしがマークにセブさんの状況を伝えてからセブさんの他ににも監視員さんが増えて、監視の担当の順番が多くは回って来なくなったので、その分セブさんと会う機会はそれほど多くはないけれど。

マークに縛られる日々の中で気の許せる人が出来たのは救いだった。

[平気よ!だって私、マークに怒られたこと一度もないもの]

[それはワカナ様には怒りませんよ。マーク様はワカナ様に甘いですからね]

[じゃあ、セブさんには怒っているの?]

[まあ、…ないわけではありませんね]

[それってあるってこと?じゃあ、これからは時々にしとく!時々遊ぶくらいなら、マークだって怒らないでしょう?]

微笑みを返したセブさんは、それ以上は何も言わなかった。