私をとても大切にしてくれて、だけど簡単に私を捨てた。


優しい、人…。

[彼、なにしてんだろうね。ワカナも探さないで]

私の隣でマークが囁く。

「やめて、車を出して」

[出させないよ。君にはしっかりと目に焼き付けてもらう]


「やめてよ!」

大声を出しても、彼は少しも驚きはしなかった。


それどころかにっこり笑って。

[ほら、ちゃんと見て?彼は、君を探さずに女性と2人で愛し合おうとしている]


あたしの目がその光景から目をそらすことができないように、手であたしの頭を固定した。

窓にあたしの頭を向けさせるマークの力は、何故か強く感じて。


…目が、離せなくて。


涙が頬を伝ったことで、初めて自分が泣いていることに気がついた。

「…なんで、なんでこんなことをするの」


知りたくなかった。

知らないでいたかった。



[どっちが君を愛しているか、君に分かってもらうためだよ]



愛して、いる。


愛し、ている。


アイシテ、いる。



言葉だけが頭を回るのに、その意味が入ってこなくなる。


[…分かっただろう?君を愛し続けているのは、僕しかいないんだ]

「貴方、だけ?]

[そうだよ。良ければ、彼以外の幹部君のところにも行ってみる?きっとなにもしてないと思うけど]

「…行かないわ」

いく気力さえ、私にはなかったから。

[うん、これ以上僕も、君を傷つけたくないや]

それから眉根を下げて。

[可哀想なワカナ。彼らに嘘で塗りたくられた優しさだけもらって。でも僕に身を委ねてくれれば、君は少しも可哀想じゃなくなる]

「どうして…?」


[だって君は、幸せになれるんだから。僕がそれは保証できる。必ず君を幸せにする]


「マーク…」

幸せにするって、巧みに操られていることを知らないわたしは。


「幸せにしてくれる?」




彼の元に堕ちてしまった。