「だからって、人を巻き込むのは頂けないわ。琢磨を解放して」
彼は暫くあたしを見つめていたが、やがてはあと、大きくため息をついて、あたしから離れた。
[…君はこの会っていない数ヶ月間でかなり意地を張るのが得意になったようだね]
「いい心構えだと思わない?」
[まったく思わないかな]
緊張感の漂う空気に早くも押し潰されそうになる。
…まだ、きっと30分も経っていないだろうに。
その時ノック音が部屋にこだました。
[…どうぞ]
聞き慣れた声が、ドアの向こう側から聞こえる。
デイビッド、彼もまだ、マークの下にいるのか。
[マーク様、これから会議が始まります]
[ワカナとの邪魔をするな。せっかくあのこを支配できそうだったと言うのに]
ブルリと震えたくなくても体が震えた。
支配なんて、やっぱりこの人はあたしを操り人形としか思ってない…。
[これは失礼致しました。ですが、会長もご出席なさります。いらっしゃらないと申し上げますと、大変お怒りになるかと]
[…それも知っている。今行く]
不機嫌そうに声を低くすると、あたしに作り物のような笑みを浮かべた。
[すまない、ワカナ。ずっと君と一緒にいるつもりだったのだけども、仕事が入っていたんだ。この部屋の中なら自由に使ってくれて構わないよ。ただし]
「ただし…?」
[この部屋から出たら、タクマがどうなるかは想像しておいてね]
ぞっとするような笑みを浮かべると、ベッドから降りると、靴を履いて外に出た。



