「和佳菜、ご挨拶しなさい」

お祖父様の声がする。

だけど顔を下げたまま、あげることなど出来なかった。

顔をあげたって、あげなくたって。



どうせあの人には知られているのだろうけど。

それでも恐怖はいつだってそばにある。

膝がガクガクと震えた。

お祖父様は一体何を考えているのだろうか。

この男をなぜ、誕生パーティーに呼んだのだろうか。

あたしが、どれだけ怖くて、どれだけ恐れているのか、お祖父様は知らないのだろうか。

いいや、知っている、

過去一連の出来事を片付けたのは、まぎれもないお祖父様なのであるのだから。

「和佳菜、早くしなさい」

お祖父様のお叱りが耳には届く。

だけども、あたしの体はうまく動いてくれない。

俯いているあたしが礼儀知らずとでも思ったのだろうか。

「…水島 和佳菜です。以後お見知り置きを」

あたしが自己紹介しなくたって貴方はあたしをどんな人物か知っている。

もちろん、目の前のこの人もそれは同じだ。