「びっくりしたか?」
「別に、そうでもない」
なんだーー!と綾は残念そうに机の上に倒れたけど、あたしビビりな女の子よりずっと肝がすわってるから、これくらいじゃ動じない。
「残念ね、驚かすならもっと派手にやってよ」
「ここ学校だろ?やれることに限りがあんだよ」
「それはそうだろうけど。というか、そのお面どうしたの」
「買った」
「はあ?」
「和佳菜が驚くかな、って思ったから買った」
なによ、どういうつもりよ。
あたしになんでそんなに近づこうとするの。
「ねえ、ずっと気になってたんだけど。なんで名前で呼ばれるの」
「水島さん、なんて堅苦しいだろ?お前に綾って呼ばれるんだ。俺がお前を和佳菜って呼んでもいいだろ?」
「それはあなたがそうさせたからで……」
「俺の名前はあなたじゃない。綾だ。呼べよ、和佳菜」
何故、そんなに決めるのだろう。
面倒くさい。
普通の女の子なら、イケメンにこんなことを囁かれたら、喜ぶのだろう。
でも、それは好きな人だったらの話だ。
いちいちそこまで指摘されると、うるさくてむず痒くなる。
「何か用でもあった?」
「いや、和佳菜を見つけたから来ただけ。つうか、お前用事あるんじゃねえの?」
あるわよ、あるけど酒臭い自分の部屋に入るのを想像して嫌になってるだけ。
「別に急ぎではないから」
「なら、校内回ってくれたっていいだろ?」
「でも、早めに帰らなきゃいけないのは一緒。綾に構ってる暇はないの」
あの部屋が取り返しのつかなくなるまでに。