「水島様。本日は当社をご利用いただき、誠にありがとうございます」
「…いえ。早く始めましょうか。思ったより時間がないから」
ピカピカに磨かれた床を10㎝のハイヒールで歩く。
ぐらつかないように気をつけなければ。
ここにいるのは、水島 和佳菜ではなくて、ミズシマ化粧品の会長の孫なのだから。
「本来ならドレスを着用いただく前にお越しいただきたかったのですが」
「ごめんなさいね。パーティーにはあまり参加しないから気づかなかったわ。以後気をつけるわ」
そう言いながら、なんて想像力の乏しい人なのだろうと思った。
水島の本家の人間に向かって、文句を言える人間はそういない。
何故って、そんなことをしたら会社が潰されるか、その人を含めた家族が路頭に迷うかもしれないから。
そんなことさえ、お祖父様は簡単にやってのけてしまうから。
あの店員さんは後でたっぷりとお叱りを受けるのだろうな。
あたしはお祖父様と距離を取りたいからお祖父様にいちいち報告することなどないけれど。
ここにいる店員さんは知らないから。



