「…帰りたい」
「馬鹿言うなよ。まだ始まってもないんだぞ」
「願望さえも口にしちゃいけないの?」
小声でそんなことを言ったら。
「屁理屈女」
「いま、なんて言った?」
「…いえ、なんでもありません」
琢磨を黙らせることは楽しい。
だけど、ほんとうに大切なことはいつも琢磨の手の中にある。
…あたしの本当の自由はいつになったら手に入るのだろうか。
「着いたぞ」
お祖父様が勝手に予約した美容室に着いたらしい。
ちなみにあたしは行ったこともない。
車から降りると、つい、うわっと言ってしまった。
隣の琢磨もなんだか引いているように感じる。
「…ねえ、琢磨。お祖父様は、どうしてこんなところを予約したのかしら」
「知らねえよ。…和佳菜にあうとでも思ったんだろ」
「ろくに顔も見ていないあんな人があうとか考えるなんて信じられないのだけど」
「とにかく行くぞ。先方を待たせたくない」
そこに佇んでいたのは、各界のセレブや女優が行くような豪華な美容室だった。
あたしの身の丈には合わないと断言できるほど、煌びやかな世界がそこには広がっているようにあたしには思えてならなかった。



