「っ……!」
「じゃあね」
そしてあたしはマンションに入った。
感情をなくした、あの人の色に染まったあの頃のあたしのように。
「あーあ、戻れたと思ったのに」
期待していたものをもう少しで得られそうだったのに。
「まあ、こんなものか」
期待したって仕方がないって昔知ったけれど、あたしは再びだれかに期待していたんだなんて今更知った。
「情けないわね」
インスタントコーヒーを珍しく淹れた。
いつもはコーヒーなんか飲まないのに、琢磨がいつか置いていったそれをようやく淹れる気になった。
…今日はなんだか、寝たくない気分だった。