「バイバイ!」
流梨花の可愛らしい笑顔に手を振ると、
「また明日」
と言ってこちらも手を振った。
7限の授業が全て終わり、サッカー部のマネージャーの仕事がある流梨花は颯爽と教室を飛び出して行ったが、何もないあたしがそんなに急ぐ必要はない。
明日の為にロッカーと机の中の物を入れ替える。
それだけなのに、随分と長居をしてしまったようだ。
ふと見れば、教室にはあたしだけだった。
こうなってしまえば、とことんゆっくりしようじゃない。
なおも、ゆっくりと準備を整えていると、思わぬところから声がかかった。
「和佳菜」
低い男の人特有の柔らかい声があたし以外誰もいないはずの教室に響く。
あたしの名前で呼ぶ男なんて、いただろうか?
少しだけ顔を上に上げると、
「…綾」
高岡綾の姿が見えた。
「こんな時間までなにしてたの」
「ん?まっちゃんに呼び出されてた。転校のことで、色々と」
「そう」
なんとなく聞いてはいけないことのようだったので、詳しく聞くことは避けた。
沈黙が続く。
居づらいといえば居づらいけれど、もうすぐ支度はすむ。
早く出てしまおう。
さっきのおかしな心臓がバクバクと騒ぎ立てる前に。