仁の家はヤクザ。

あたしなんぞの一庶民の情報など簡単に手に入る。

だから、あたしは知らなくてはならない。

だけど、最近のあたしは誰にもなにも聞けなくなっていた。

どうでもいいことは大丈夫なのに。

大切なことになるといきなり口が動かなくなる。


例えば、そう。

仁にだって、あたしは仁の家のことを聞けなかった。

琢磨から仁の家はヤクザだと、聞いたのに、どこか信じられないあたしがいるんだ。

違うかもしれない。

いいや、違ってほしい。

と願望に過ぎないものを抱えていた。

琢磨が嘘をつくはずがない。

琢磨はいつだって真実しか教えてくれないのだから。

それを、頭では理解しているのに。

あたしの気持ちが拒絶する。

「和佳菜、行くぞ」

「………」

「和佳菜…?」

「…あ、ごめんなさい。考えごとをしていたわ。今行く」

すぐそばに来て心配そうに屈み込んだ仁を振り払うように、 “幹部室” に向かった。



聞かなければ。


そう思っても、気持ちは前に向かなかった。