「仁、痛い。そろそろ離して」

そう声を上げるとスピードを緩めたのがわかった。

だけど繋いだ手はそのまま。

「これでいいか?」

振り向いた仁が、そうあたしに言った。

無表情、無機質。

ねえ、あたしね、そんな顔してほしいなんて思わないんだよ。

忙しそうな貴方を別にあたしのせいで閉じ込めたいとかそんなことは思っていないの。

学校にはあたしがいるから毎日来ているけど、その目の下にクマが出来ているのは、あたしだってわかる。

「ねえ仁、心配なんかしなくたっていいんだよ。あたしのことなんて誰も襲わないよ」

「今までは、綾が居たから誰も襲わなかっただけだ。綾が居ない今、急に理由をつけて転校できるのなんて俺ぐらいしかいないだろ」

「じゃあ、綾が帰ってきたらもどるの?」

そうじゃないと、どこかで思った。

仁の転校は確かに急で、特別である仁にしか成し遂げられないものであっても、それだってこの数日間でいきなり出来るはずがない。

どんなに短くたって、1ヶ月はかかるだけの順序を踏まなくてはならない。

それを、仁は唐突に朝迎えに来ると、俺こっちの生徒になったから、とだけ伝えてあたしを高級車に乗らせるだけのために、あたしと綾が通う姚島蒼井に来た。

だけど、そんな言い訳通用しないのだ。

彼は綾のためでも、なく他の目的があってこっちの生徒になったのだと、少なくともあたしはそう踏んでいた。