壁掛け時計には6時半が表示されていた。
あれ、6時半?
あたし、こんなに早く起きたのは久しぶりなんだけど。
いつもは綾に起こされて、睡眠を邪魔されて半分怒りながら家を出て行くのに。
階段を上ると、いい香りがするのがわかった。
バターを焦がしたような美味しい匂い。
「おはよう」
1階の食事スペースに、綾の姿があった。
「よお、和佳菜。よく眠れたか?」
手際よくなにかを作りながら、綾はあたしに聞いた。
「ええ、十分すぎるほどに」
「お前、今日は静かだな。いつもは朝はうるせえのに」
「そうよね。あたしもスッキリと目が開いて、いい気持ちなの。何故かしら」
「知らねえよ」
彼の知らねえよ、は突き放す言い方じゃなくてどことなく優しさを含んでいた。