「例えば?」

面白がるように口角を上げて仁が催促するから、あたしも調子に乗ってペラペラと話してしまう。

「どんなに忙しくてもあたしを送るのは忘れないし」

「当たり前だろ。自分から言いだしたんだ」

「あたしが困ってるとさりげなく助けてくれる。前にこんなことあったでしょう。あたしが知らない人の話で下のみんなが盛り上がっていた時」

『和佳菜にも説明してやれ』

なんて、盛り上がっていて誰も彼も忘れていたあたしの存在を彼だけは、貴方だけはあたしを忘れないでいてくれた。

1人が多いあたしにとってそれがどれだけ嬉しいことか、きっと貴方は知らない。

「あたし、あんなこと言ってもらったことがなかったからとても嬉しかったのよ」

「そんなことあったか?」

仁は本当に覚えていないようで、眉間にしわ寄せて唸っていた。

「あとは……そう!聖(せい)が鼻血を出した時、処置が早かったでしょ」

「それはもうお前に関してじゃねえだろ」

「でもあたしすごく気が動転していたから、頼りなったのをすごく覚えているの」

下のみんなの中でもよくドジをする聖がドアに頭をぶつけて何故か鼻血を出した時を思い出すと、自然と口角が上がる。

「なんだそれ」

プッと吹き出したように彼が笑った。

「あ、笑った」

「は……?」

「ふふ、仁が笑ったなあと思って」

「なんだよ、笑っちゃいけないのかよ」

そう、拗ね始めたから慌ててあたしは理由を説明する。

「違うの、違うの。さっきまで仁が暗い顔をしていたから笑ってよかったと思ったの」

そもそも暗くさせてしまった原因を作ったのはあたしだから。

その責任は取らなければと思ってしまったんだ。


そうしたら、仁は片手で頭を抱えて。




「お前には敵わないな」




そう言って困ったように笑ってくれた。