「お前の目は俺のお気に入りだ」
「目……?」
綾に真っ黒だと言われた光のない目。
この目のなにが好きなんだろう。
「そうだ。その目でずっと俺だけを見てろ」
彼はそう言ってあたしに微笑んだ。
beast、和訳をすれば野獣。
そんな呼び名がつけられるほど、彼は恐ろしい男。
この1週間、あたしは色々な噂を聞いた。
誰彼構わず、殴りにかかる。
この地域で静かに暮らしたいのなら彼の言うことは聞かなければならない。
だけど、そのルックスから寄ってくる女が絶えない。
あの男と関わるなら死を覚悟した方がいい。
そんな忠告を顔も知らない誰かにされたこともあった。
それでもあたし、この人が噂通りの人間だとはどうしても思えないの。
あたしを優しく包み込むように抱きしめた、この人を。