「ダメに決まってるだろ」
『何故よ』
普段頭の切れる和佳菜も焦っているのか、分かっていない。
「ここにお前がいることがバレたらあいつらは寝込みでも容赦なく襲って来られるんだぞ。南たちは、つけることだって追い回すことだって出来る。つまり、迷惑を被るのはお前だ」
『……』
俺だってそんなことさせたくねえ。
だから本当に黙るしかないのだ。
それ以外で今をやり過ごす方法は……。
『……ねえ、綾』
しばらくしてから、沈んだ声で和佳菜が俺の名前を呼んだ。
「なんだ」
『ここにいるのが“あたし”だって分からなければいいんでしょう?』
「は?」
『だから、ここにいるのが “水島 和佳菜” だと思わなければ、南は帰ってくれるんでしょう?』
それはそうだが。
「お前、なんか考えついたのか?」
『ええ。少し、賭けになるのだけど』
そういうと彼女の声は聞こえなくなり、代わりにごそごそという何かを探すような音が聞こえ、やがてそれも止むとそれ以上何も聞こえなくなった。