「ま、なんでもいい。ちょっとこっちに来てもらおうか」
なにも言わないあたしにしびれを切らしたのか、強引にあたしを路地裏に入れようと試みている。
だけど、そんなことを言われたって、この状況は危ない予感しかしない。
それなのに、あたしがノコノコついていくとでも思っているのだろうか。
「嫌」
「嫌って言える立場かな?」
「立場よ。人を探してるの、邪魔しないで」
「とにかく行くよ」
仕方ない。
これは使いたくなかったけど、身を守るためだ。
「離して、最後のチャンスよ。これでもわからない?」
男の眼を見て、睨みをきかせた。
伊達にあの人の側にいたわけじゃない。
あそこであの場所であたしは色々なものを見てきた。
きっとその経験が今生かされている。
その証拠に、目の前の男をはじめとしたあたしを囲んでいた人たちがぞろぞろとあたしの側から離れた。
「お前、一体何者…」
「ちょーっと、ねえ。何してんのかな?」



