そう言う理由は、たぶんない。
ないなら、普通に言えよと思う。
「明日また写真が増えると思うと、わくわくしちゃう」
「あっそ」
俺はそれだけ言って、席を立つ。
「蓮くん、また明日」
「またな」
そして十二時になる少し前に、俺は病院を出た。
朝の挨拶はしないくせに、帰りの挨拶はする。
これは、叶花の友達への強い思い故に、そうしている。
看護師に言うのも、家族に言うのも、違うんだと。
まあ当然と言われればそうだが。
叶花の中で、「おはよう」よりも「また明日」の言葉のほうが特別らしい。
だから、叶花が俺のことを友達だと言い張る以上、俺は叶花の願いに応える。
俺は一度家に帰って腹を満たし、カメラを持ってK川のそばで咲き誇る桜の写真を撮りに行った。
このカメラは去年、俺の入学祝いに母さんが買ってきた。
これで叶花が喜ぶような写真を撮れ、と。