「悩める子羊?」

なんのことかと聞き返そうとしたところで、椅子に座った彼女越しにある人物の姿が目に入った。
向こうにあるカウンターの中からグーサインを作るように親指を立て、それを掲げる太一である。

「あいつか…」

ウインクでも飛んできそうなくらいのキラキラスマイルを向けてくる太一を見て、自然にため息がこぼれた。

あの、おせっかいめ。

状況を理解し、盛大にため息をこぼした俺を見て麻子ちゃんが慌てたように口を開く。

「あの、私が気になって太一くんに聞いたの!なんか涼くん悩んでるのかなと思って…」

俺、そんなにわかりやすいのか。

「いや、こちらこそなんか心配させたみたいでごめん」
「余計なお世話だったらごめん!だからその、無理して聞くつもりはないんだけど…もし何か力になれるならと思って」

控えめに、けれど真っすぐにこちらを向く彼女の顔には、ただただ俺のことが心配だと書いてあるかのようだった。

なんか颯にはもったいないくらいいい子だな。退院したら、あいつにはきっちり礼をもらわないと。

そんな少しだけ脱線した思考を戻すかのように、改めて麻子ちゃんの方に向き直る。

「じゃあ少しだけ、聞いてくれる?」
「うん、もちろん!」

そうして俺は美己との間にあった最近の出来事をかいつまんで説明してから、今まさに悩んでいるメッセージの返事について彼女に助言を求めたのだった。