「あはは、ちょっと最近彼氏とすれ違いで…」
「あー、一緒に住んでるおしゃれカフェの店長さん?」
「うん、そうそう。よく覚えてたね」
「美己のことなんだから、当たり前でしょ」

何気ない会話。だけど今や業界ではそれなりに有名なメイクアップアーティストになった彼女が担当するモデルさんは数知れないはずなのに…こうして覚えていてくれることがすごく嬉しかった。

「カフェ勤務だったら…いい感じに時間合わないんじゃないの?美己と」
「仰るとおりです、森先輩」

私よりも6つ年上の森ちゃんは、ちょうど涼くんと同じ歳で。
彼女の人柄もあるとは思うけれど、言わなくとも核心をついてくるところはさすがだと思う。

「辛いよね、一緒に住んでるのに生活リズムが違うのって。近くにいるのになんか遠い、みたいな」

その言葉は私の気持ち、そのものだった。

一緒にいるのに、なんだか遠くて。
すぐ届く距離にいるはずなのに、なんだか少しずつ離れていくような。

「どうやってコミュニケーションとってたか、なんか今思い出せなくて」
「美己…」

真剣に話を聞いてくれようとする森ちゃんを前にしてぽろっと溢れたその言葉は、アウトプットすることで今の私の心には逆に突き刺さってしまったようだ。

今は仕事中だから、いけない。
だけど、気を緩めたらすぐにでも私の瞳からは涙が溢れてしまいそうだった。