初めてのあの夜から1年近くがたち、相変わらず私は家→店→亮の店 →家
この繰り返し。


その間、デートらしい事はしていない。

いつも誰かがいた。はるなだったり、亮の店の子の直くんだったり。

誰一人私たちの事は知らない。


何度も酔って絡んだ。

他のお客さんとは二人で出かけてずるい!もう少し優しくして!

その度に『めんどくせぇーよお前、約束したろ?』
って怒られて、私が泣いて謝る。

そんな事の繰り返し。

毎日のように一人で泣いていた。


変わった事といったら、毎日の着いたよコール。


「着いたよ!おやすみ。愛してるよ!チュッ!」

二言増えた。それだけ。

でもその二言で私は無くしかけた自信を取り戻し、亮に対する不信感も忘れてしまっていた。


何て都合のいいおバカな女なんでしょう。

そう。私は彼に貢ぐおバカさん。


生命保険も解約したし、貯金ももうない。
店で貰う給料はほとんど亮のために使われた。

でも私は後悔しない。


亮が働いてる姿をみるのが大好きで、それをさかなに飲むのが私の幸せ。

それから一番幸せな時間、帰りの8分間。

それしか楽しみ無かったんだから。


一生に一度めちゃくちゃバカやってもいいじゃない。
歳とったら出来ないかもしれないし、今私は少しでも亮のそばにいたい。それしかないんだから。

誰にも迷惑はかけてない。

騙されてるかもしれない。
それでもいい!限界まで騙されてあげる。そう思っていた。


私の宝物。ペアの腕時計。

パッと見はペアに見えないから堂々と付けていた。


それと亮が妹の結婚式でグアムに行った時のおみやげ。

私の大好きなイルカの栓抜きとマニキュア。私に似合う色を選んでくれたらしい。

亮もサーファーだけあってイルカが好きだったらしく、店中イルカがいる。栓抜きもおそろい。

そんな小さな事でもめちゃめちゃ嬉しくて、見てはニヤけてしまう。

そして一番嬉しかったのは〝ディオールのファーレンハイト〟
私がいつもクンクンしてるの解ってたんだなー

亮と同じ匂いで毎日過ごせる!最高のプレゼントだった。

私がプレゼントした物は喜んでくれていたのかな?大事にしてくれているのかな?


手編みのセーター、ジーンズ、靴、携帯の新しい機種、などなど。

貢いじゃってるなー私。使ってくれてるならやりがいはあるんだけどね。

亮は本命の?彼女と同棲しているので私がそれらをあげたあとどうなってるか見たことも確認した事もない。

セーターにはわざわざ既製品にみえるようにタグを縫い付けたりして気を使った。


私の誕生日には店に飲みに来てくれた。花束をもって。
やっぱりその時も皆が亮を目で追っていた。


今は私の彼氏だよ!誰にも言えないけどね。

昔から良くして貰ってるお客さんに、
「お前の彼氏か?いい男だなー」なんてひやかされて、そうだと言えない事が悔しかった。

本命彼女さんが羨ましく思う。


一応チイママの私、花やプレゼントはたくさん届いていたけれど、亮の花束が一番きれい!


私のイメージで作って貰ったって。黄色とオレンジでまとめた柔らかい優しい感じの花束に私は大感激!

枯れてしまうのが悲しかった。




ある夜店が暇で、バイトの千夏と一緒に待機ルームで待機した時があった。

携帯でメールや電話で営業しまくった。


努力のかいがあって一人のお客さんが来てくれて、私は待機ルームを出た。

まだ残っていた千夏に携帯を預けて…


しばらくすると続々とお客さんが入ってきて、ママは千夏を呼びに行った。

これで全員仕事が出来て一安心。
仕事がないほど辛いものはないと思う。


帰りに千夏に呼び止められた。話があると…


話の内容はこうだった。
千夏は待機している間にうとうとして寝てしまったらしい。

そのこと事態許されない事だけど千夏は笑いながら話を続ける。


待機ルームのソファーで寝てしまった千夏をママが呼びに来た時、テーブルの下には携帯が落ちていた。

私が千夏に預かった携帯だった。

千夏はテーブルに置いたけど着信があってバイブがなり、震動で落ちてしまったらしい。


ママが千夏を起こしながら拾ってくれた。

その時、二人は見てしまった。そこに携帯と一緒に落ていた亮が私の肩を抱いて仲良く写っているプリクラを。

私はそれをバッテリーをはずして中に貼っていた。


テーブルから落ちた衝撃でバッテリーがはずれたんだ。


二人は見なかった事にして仕事に戻ったと。

その話を聞いた時、仕事中に寝てしまいしかも預かったものをテーブルから落とし謝りもせず
「見ちゃったー」なんて冷やかす千夏とそれを注意する事を忘れてしまっているママに呆れてしまった。


次の日、ママには事実を話した。


「じゃあ今度私も亮さんの店に連れてって!」

ママは特に何も言わず一緒に飲みに行きたいと言った。

「いいですよ!一緒に行きましょう!でもプリクラを見た事は内緒にしてくださいね。」

なぜかその日早速亮の店に行く事になった。
店が終わり少し酔っているママと二人で亮の店に到着。

何度か逢っているので特に紹介も挨拶もなく飲み始めた。


ママはブランデーを1本入れてくれたので私もそれを飲んだ。


店が終わって緊張感がないせいかママは酔いがまわり始めてまた例の引退の話になった。


私は聞こえないふりをしていたら、ママは亮と話始めた。


昨日の出来事を亮に言われたら怒られちゃう…
ドキドキしながら話に聞き耳をたてた。


「亮くんはこの店を始めたきっかけは何?」呂律が回っていない…

亮は店を出した経緯を話始めた。


「最初は東京のホストクラブで働いてたんですけど、同級生がここ、地元でバーを開くから、戻って来て、協力して欲しいっていうんで、働きだしたんです。

けど、年々景気は悪くなる一方で……

4年たつと、彼は、開店時の借金返済も終わったし、赤字になる前に辞めたいって言いだしたんです。

それで店を居ぬきで買ってくれないかって頼まれて……

分割でいいっていうし、じゃあやってみようか。と思ったんですよ。
いつまでも使われてても……と思いまして……」