「ん?なに?」
そして少し見つめた、その時。
突然檜山の胸ポケットからは、ピリリリリ、と着信音が鳴り響いた。
その音にはっと我に返り、私は檜山から距離を取る。そして電話に出ると「はい、えぇ」と短く返事をしてすぐ切った。
「今度こそ社長から呼び出しだ。じゃあ」
「あ、うん」
そう言う彼の表情は、いつも通りのなんてことない顔。
こちらのときめきに一切気づくそぶりもなく、檜山は足早に応接室をあとにした。
「……はぁ」
ひとりになったその部屋で、鼓動を落ち着けるように息をひとつ吐く。
はぁ……ドキドキした。
檜山にとってはどうってことないことなんだろうけど。突然あんなふうに近づくから困る。
落ち着け、冷静になれ。私。
檜山は私を異性として扱っていないから、あんなふうにできるんだろう。
そう、だからこそ私はこの片想いを檜山に知られてはいけない。
好きだなんて知られたら、きっとただの同居人ではいられないから。
私と彼はただの同期で同居人。
それ以上でも以下でもない。
何度も何度も、心の中でそう言い聞かせた。



