「……檜山って、いつも私のこと助けてくれるよね」
抱きしめたままでいると、亜子がぼそりとつぶやく。
その言葉に、俺は呆れながらその鼻をぎゅっとつまんだ。
「助けられるような状況に陥ってばかりいるからだろ」
「いたたた!ごめん、ごめんってば!」
亜子は俺の手を鼻から離し、それ以上つままれまいとするように俺の胸に顔を押し付ける。
「……呆れながらも助けてくれる檜山が、やっぱり好き」
俺の胸元に抱きつきながら言ったその言葉。
それは、普段なかなか言葉にできない亜子なりの、精いっぱいの素直な気持ち。
見ると、かすかに見える頬から耳まで真っ赤に染まっている。
その姿にまたこみ上げるのは、強いいとしさ。
「……俺も。亜子のそういうところ、好き」
その耳元で小さく呟き、またぎゅっと抱きしめる。
彼女を包む、腕の中が熱い。
この頬も、熱い。
その言葉が、表情が、この想いが一方通行ではないのだと教えてくれるようだ。
それがとても嬉しくて、口元が緩んでしまう。
だから今は、この表情も、頬の色も見られてしまわないように。
ふたりきりの廊下で、君を抱きしめたまま。
end.



