「なんだ、それならそうって言ってくれればよかったのに。好きな人がいるのに、仮にも異性と同居なんてまずいでしょ」
そんな動揺を隠すように、平静を装って笑うと、檜山は不思議そうに首をかしげる。
「は?ミネコ?」
「大丈夫、そういうことならちゃんと出ていくから。引っ越し先もすぐ見つけるし」
「おい、待てって。おまえなにか勘違い……」
そう言いながら、その場から逃げようと立ち上がる。けれど檜山はそんな私の腕を掴んだ。
力強いその長い指に、こんな時までときめく胸が憎い。
その感情ごと振りほどくように、私は檜山の腕を振り払った。
その拍子に指先がテーブルの上の缶に当たり、倒れた缶からこぼれたビールがラグマットに広がる。
炭酸が布に染み込む音を聞きながらも、それを拭う余裕なんてない。
「……触らないで」
ひと言だけつぶやいたのは、完全な拒絶の言葉。
もうこれ以上、勘違いさせないでほしい。
触れられるたびに喜んで、期待をしてしまうから。
もっと、もっと、檜山を好きになってしまうから。



