「わ、檜山くん楽しそう。やっぱりあの噂って本当だったんだ」
隣の先輩の言葉に、私は視線を先輩へ向ける。
「え?『あの噂』?」
「あの子時々ここに来るお客様なんだけど、檜山くんってあの子のこと好きみたいよ」
檜山が、あの人を……好き?
「あ、あはは、そんなまさか」
信じたくなくて乾いた笑いで否定する私に、先輩は真剣な顔で言葉を続ける。
「だって他の子が檜山くん本人から聞いたらしいよ。ま、でもあんな優しい目してるの見たら納得もできちゃうよね」
そんな、そんなの嘘だ。
ただの噂で、なにか誤解で。
心の中は混乱しながらも必死に否定をする。
けれど、再び目を向けた先にある檜山の柔らかな表情に否定しきれなくなってくる。
その時、視線に気づいたように檜山はこちらを見る。
顔を見られたら動揺に気付かれてしまいそうだ。
合いそうになった目をそらし、顔を背けると、私は逃げるようにカウンターの奥へ入った。



