「あったかい……」
気付かぬうちにうちに体は冷えてしまっていたのだろう。熱いお湯に、全身がほっと和らいで気持ちいい。
でも、びっくりしたなぁ。
檜山がすぐ駆けつけて、そのまま連れ出てくれるなんて。
その行動が嬉しい……はずなのに。耳に残る愛菜さんの言葉が、胸の奥をチクリと刺す。
『付き合ってる時もすごく大切にしてくれたわ』
やだ、思い出したくない。耳を塞いで、ひとり首を左右に振る。
檜山は普段、恋愛話なんてしないけれど、過去に恋人がいただろうなんてわかっていた。
だけど、その人とどんな恋をしたか。その人にどんな風に触れて、どんなふうに思いを伝えたかなんて、知りたくない。考えたくない。
愛菜さんの隣に寄り添う檜山の姿を想像して、苦しさに涙がにじむ。
瞳からこぼれた小さな雫を、そっとお湯で溶かした。



