私の好きな人



”来たね、タイミング!”



ふと桜子の言葉がよぎった


そうだ…


カバンから桜子から貰ったチケットを取り出した



渡さなきゃ



「………はぁ」



緊張するなぁ

急に一緒に水族館行こうなんて


さすがに優しい良平でも断るよね…



なんて言って渡そ…


「それなに?」

「チケット…水族館の」

「へぇ、…誰と?」

「………」


チケット2枚を両手で握りしめる私は直立不動


誰と……?


その答えの人物が私の脳裏に浮かぶ


握りしめたチケットは少し形を崩した


横に座る小林くんからしたら不思議でしかない




「……あぁ、そういうこと」


察した小林くんは


「ほんと可愛いね…その感じ」

「っ…なに」


突然立ち上がりカウンターから出ていった小林くんは入口方向へと歩いていく


「藤さん」

「え?ちょっ…」


小林くんは良平を引き止めに行った


私は慌てて追いかける


「この子が話あるって」

「ちょっと…!」


引き止められた良平は私の方へと視線を移す


「……なに」

「いや…」


握りしめたチケットは後ろへ隠したまま


チラッと良平を覗くように見ると


「………」


無言で、どこか機嫌が悪そう


ほら…やっぱり今はタイミングなんて来てないよ


何してくれたのよ…小林くん…



「あれ、森岡さん?用事は?」

「いやだから…」


恥ずかしい…!


やめて…


小林くんは私の後ろにまわり、チケットをツンってはたいた


「…彩月、用ってなに」


声が怖い


優しい声じゃない


こんなの渡したって断られるに決まってるよ



「あのね、こ」
「あ、もしかして違った?てっきり藤さんにかと思って呼んだんだけど。ひょっとしてこれ渡すの俺だった?」

「は?あ…」


そう言って小林くんは私からチケットを奪い顔元でヒラヒラと動かす


……なにを…っ!?



「帰る」

「え…」

「時間ないから」


良平は明らかに不機嫌な態度で歩き出した


「待って!」


私は思わず叫んだ



小林くんを睨み、チケットを奪い返し良平へと近づく




そうじゃない


私も変わらなきゃ


人に流されてばっかじゃ



後悔したって



意味がない…




「良平、これ受け取ってほしい」

「……なに?」

「あのっ…」


思いっきり息を吸って

思いっきり息を吐く



落ち着け…私




「水族館!一緒に行こう…かな…って思っ…て…、いやあのぉ…どうかなぁ…て」


語尾がゴニョゴニョとなる



「…水族館?」

「そう……これチケット」

「……」

「どうかな?」

「別にいいけど」

「え?!ほんと?」

「うん」



私の顔は一気に華やぐ

目はキラキラ、口角は上がりきっている

空気が一気に透き通った気がした



チケットを1枚渡し、良平は帰っていった



「……やった!」


小声でガッツポーズ