遺書
「親友なんて、本当にいるのだろうか。
私は親友とと二人の物語よりも自分が主役の物語に出たいと思った。
私は自殺のように死ぬよりも、迫害される方がマシだと考え、その水準をわざと落とし、迫害されているように見えるように仕向けた。
そう、これは私が主役の物語となったのだ!
私の元親友は悟ったことだろう。
私はこの物語から一生抜け出せない、と。
親友なんて言うのは自分の地位確保のざれごとのようなものだ。思春期で感受性の強いヤツらだからこそできる、最高にクールで過激な関係だ。
そして、私からもう少しお話させて頂こう。
私は今、最大のクライマックスを迎えるのだ。
一人の女性体育教師。そいつには殺意が湧いたこともあった。だが、それではあいつが主役の物語が完成してしまう。
だからここで、1つ、プレゼントをさせて貰おう。
それこそこの紙だ。
あいつが言ったことをすべてばらすのもいいだろう。でもそれでは私の好きなミステリアスな話にはならない。
だから、こう言っとこう。
その先生は強情で、見栄っ張りの激しい面白い先生だった。
主役の虚しさをさらに引き立てる脇役とでも言っておこうか。
先生は思ってもなかっただろう。
私の物語の脇役として利用されていた事。
本当に悲しそうな顔をしてみたり、
わざと心配したような顔に目を向けるのは、涙が出るほど面白かった事。
これこそ、お前の知らなかった私の本心だ。
一年前からどう復讐しようか迷っていた。
だが、ようやく浮かんだ。
先ほど言ったように、思春期ならではのお前達に人間の本質を教えてやることが最善の策だと思った。
きっとお前達は私をいじめている気でいたんだろう。あの威張り腐った顔には吐き気とおかしさを覚えた。残念だが、怒りなど1ミリもわかなかった。
わざとあの時、泣いたようにトイレに駆け込んだ事も、本当の事を言ってやろう。腹を抱えて笑っていたのだ。そんなことすら気づかず、ディズニーに行っただけでグループラインの話題になると聴いた時ほど面白かったものは無い。
家族全員で馬鹿だと笑ってやった。
残念だが、私は永遠にお前達の中心であり続けるらしい。お前達はきっと、今も怯えている事だろう。それが見られなくて本当に残念だ。
さぁ、お前達が主役の物語の始まりだ。
これが私からの最大の復習、そして、
私のクライマックスだ。
これからお前ら馬鹿どもが創り出す物語を
影で笑いながら見てやるとしよう。終」
長い遺書の後にはしっかりと、沈黙が続いた。
音声も合わせて送られてきたこの遺書は何よりも怖く感じたからなのかもしれない。
何が言いたかったのかがわからない。
私に伝わらなかったという事は、
私に向けてではないだろう。
そして、何よりわかったのは、
女性体育教師は私のクラスの担任だという事。
その事実から目を背けるように先生は喋り出した。
「皆さん、このように気の毒な人を出さないように、人の気持ちを考え、分かち合えるようにしましょう。」
皆、分かってるのに分かりたくなくて、いや、
彼女が突きつけた真実から目を背けたくて、
馬鹿なふりをしているんだろう。
皆顔を合わせて笑って、冗談を聞いたように顔を歪ませて、馬鹿なふりをしている。
本当は先生も、彼女が言いたかった人にも、
伝わってるはずなのに。
先生の顔が見たくて、顔を向けたけど先生はラジカセをいじるばかりで、こちらを見る素振りさえ見せないのも、とても怪しく思えてくる。
馬鹿な思春期の子供と思っているように見えて、
腹が立った。

それから数日、何も無かったような、
クラスを行き交う笑顔も、笑い声も、
全てが時間が進んでいるようには思えなかった。
ただし、少し変わった事があった。
先生の授業が減った事だ。
何でかなんてどうでも良くて、
私は先生の顔が見たくて見たくてたまらなかった。
人を追い詰めたはずだったのに、
本当は利用されていたと知った時の人間の顔が、見たい。