「難しいことは言わない。とにかく立って。早く帰ろ。」
その言葉が少女のガラスのメンタルに突き刺さったのか。
「酷いよー。もう立ち直れないよー!」
ああ、魔が差した。銀白色の空は暗黒色の空へと変わりつつあった。
「誰か助けてくれ…」
もう間も無く酉二刻を迎えようとしている。この時間帯になると学校に残っている人は部活に入っている人ぐらいだ。
「一人で帰っていいか?」
「うぇーーーん…うぇーーーん…」
「そろそろ泣き止んだりしない?」
「…。…。…。うぇーーーん…うぇーーーん…」
「はあぁー。」
見た目は子供。中身も子供の高校生。か。
「君は女の子をいじめるから私に捨てられるのよ。」
後ろからクーリッシュな鈴音が耳を震わせた。
「美咲、なぜここにいる?」
俺はそのクーリッシュな声でわかった。
「なぜって、学校帰りに決まってるじゃない。」
「そうか。」
「元カノが同じ学校、同じクラスっていうこと忘れてた?」
「忘れたいけど忘れられる訳ないだろう。」
こいつの名前は穂村美咲。さっき説明があった通り俺の元カノだ。学内で5本の指の中に入るだろう。くびれた腹部に膨よかな胸。その淡麗なスタイルは制服ごしでもわかるほどだ。艶やか黒髪ロングに美しく整っている顔。虜にならない男子などいない。俺も虜になったうちの一人だ。
「とにかく、女の子をいじめることは見過ごせないわね。しかも、年下の少女を…絶句するわ。」
この状況を途中から見た人はそう思うだろう。
「もしかして新しい彼女さん?中学生?あなた、ロリコンなのね。捨てて正解だったわ。」
否定する隙も与えてくれずに話は進んでいってしまった。これは詰んだ。
「ねえ大丈夫?怪我してるの?」
少女に詰め寄り、話をかける。やっぱり根はいい奴なんだよな。
「ぐすん…私、中学生じゃない!」
少女は煌びやかな目を両手で擦り、涙を拭き取った。
(あっ、泣き止んだ…)
「私はあなたのこと知ってるよ。将太の元カノでしょ?」
将太って俺の名前ね。
「私も思い出したわ。あなたは確か将太君の幼馴染よね?」
思い出すタイミング都合良すぎだと思うのは僕だけでしょうか。
「私から将太を奪わないでよね。」
「貴方達ってそんな関係になりつつ…」
俺の元カノこと美咲の目が獲物を狙う蛇のように輝いたように見えた。
「いや、私がもう一度彼をおとして見せるわ。」
「このクソビッチが!」
だから、そんなに可愛らしい容姿を持っているのに口が達者過ぎるよ。
「何度でも言っているといいわ。」
俺が会話に入る隙間など微塵もない。