昨日のあたしはヤバかったらしい…

喉乾いても、泣いた顔見られないように、下降りなかったのに
朝母にひき気味に心配された
聞こえてたの泣き声だけだと良いな…

でも、今日の私は何だかいけそうな気がしている。昨日の朝子パワーが効いているのかもしれない

だって、わざわざ返事を待たせて、
その上で直接会おうって言ってくれているのだ
気がない人にそこまでするだろうか


いや、単に優しいだけかもしんないけど…千田君にはそういう律儀な所があると思う。

元気が良くて、率先してふざけてる男子の一人なのに、そういうところはちゃんとしてる。そこがかっこいいと思ったんだし…十分あり得る……

やめよう、、またこんな弱気になってたら朝子に殺される。

朝子はこんなウジウジしてる私なんて私らしく無いと思ってくれるかもしれないけど、サバサバ格好良く居られるのは、朝子と居る時だけなんだよ
本当は…情けないけどね

いつだってカッコいい朝子の陰に隠れて男らしいふりをしてたのだ
朝子が言う事はいつだってサッパリしてて、それに賛成するにしろ、反対するにしろ、迷わずにいられるから。


本当の私はこんなに弱いよ朝子…

待ち合わせの20分前に着いてしまった私は、狭い公園の真ん中の方のベンチで腰掛けて彼を待っていた


が、公園の背の高い時計 の針は
待ち合わせの時間をとうに過ぎていた

ここの時計ずれてるのかな

スマホを取り出す
ホームボタンを押して、
明るく映し出される"14時30分"


10分遅れてるわ…
公園の時計の長針はまだ
20分を指している

見なければよかった

曇りの空はにぶく沈む
待ち合わせ時間前に着いちゃったのに、『もう千田君居るかな?』『遅れてごめーん!』『いや全然遅れてないよ』ってやつやれるかな?
とか思ってた自分が情けない


キュキュー!!と鋭い音がして
私はついそちらに顔を向けた。

『み、宮本さん…ごめん…』
『本当!ごめん‼︎
めっちゃ待たせたよね…』

ハッ…ハァッ…ハァッ……と
私に謝ってくれながらも
凄まじく息が上がっているのが分かる

汗もびっちょりで、もう尋常じゃない位急いで来てくれたんだなぁーって
感じだ

「コーチ、あ、今日練習だったんだけど、、コーチの機嫌悪くてさ…帰り際説教始まっちゃって…」

「いや!言い訳だわ!
そういうん言いたいんじゃなくて、
本当に遅れてゴメンってこと!」

私は待ち合わせ時間前に待っていてくれるのなんかよりも、ずっと
私の為にこんなに必死で頑張ってくれた千田君を見れたことの方が嬉しかったから、そのコーチには
いや、そのコーチの機嫌を悪くした誰か、かな?、には感謝しなくてはいけない。

もしそれが、千田君で、私のことを考えてて上の空になっていたんだったら良いのに
もっと言い訳して良いから
もっと詳しく長く話してくれたら良いのに…と思った

「千田君、バド部だっけ?」

「そうそう」

汗を拭きながら彼は笑う
眩しい


「じゃあ…」

彼が真面目な顔になる…

もう話すの…?
まだ良いよ、、
もっとこの時間を伸ばしてたいよ

そんな気持ちとは裏腹に

「うん…」と頷く私がいて

千田君の唇はゆっくりと開く…

「まだ!…待って‼︎‼︎」
私は叫んだ

言わなきゃいけない
このまま千田君の答えだけを聞いて
終わりなんかじゃ駄目だ

思ったじゃないか
想いはちゃんと目を見て
自分の口で伝えなきゃって

千田君の目を丸くした顔

気まずい、
恥ずかしい、
あたしの馬鹿



「もう一回ちゃんと告白したいの!」
「それからじゃ、だめ?」

少し戸惑って
彼は優しく頷いた

「いい、ちゃんと聴く」

真っ直ぐな目が
痛いくらいに眩しい


「あーあたし、ちゃんと言えるかなぁ」今更言い訳、恥ずかしい

そんなんじゃない、
朝子みたいに
千田君みたいに
格好良くなりたいんだ、私は


「好き、千田くんが…好き。」









「ごめん、」






「…うん、もっと詳しく聞いても…」
だめだ私もう涙ぐんでる、弱いな
「いい…?」


「うん。
宮本さんのこと今まで意識したことなくて、でも一昨日告白してくれてすごい嬉しくて、
なんか一気に意識しちゃってさ…」

「うん」嬉しいな…


「でも、ニ晩。宮本さんと付き合うっていうのを考えて、やっぱり俺は宮本さんの気持ちには応えられないって
思ったから。ごめん。」
「告白してくれて嬉しかった。
ありがとう。」

やっぱり、大事な所はぼかすな…
それがきっと千田くんの優しさ
そんなん聞いたら
私は泣いちゃうけどさ
でも…
ちょっとだけ聞きたかったかな
辛い言葉も
それが千田君の気持ちなら

「ちゃんと言ってくれて、
ありがとう。」

私の最後の笑顔
もっと可愛い顔だったら良かった
きっと、あと数日
拝む事はないでしょう


「うん。」
しっかり頷く、
こっちを見てゆっくりと

あ、陽が出て来た
雲の隙間から
ドラマみたいにに光が溢れる

「じゃあ」
彼は去っても良いのだろうかと気を遣いながら声を掛ける

「うん。じゃあ」
私は胸の横まで小さく手を挙げた

来た道、と言っても私に見えるのは僅かな距離だけだけど、帰ってく
彼は自転車に乗って走り去る
逆再生みたい
また先送りにしたら
戻って来そう
さっきの時間がまた
繰り返されそう
何回やっても私、振られそうだな

ゔぅっ…ゔぅうゔぅぅ
涙がこれでもかってくらいに溢れてきて、私は自分の涙に溺れるんじゃないかと思った


「あざごぉ〜!!」

「なにー!大丈夫⁉︎」

電話の向こうで朝子も叫んでいた








ー終ー